「初宮神社」のこと
初宮さんと呼ばれるお社は足早に急ぐ人たちに気付かれることもなく、ひっそりと建っています。まれに足を止めて目をやる人は、隣の「寺川古道具店」、その隣の「旧鍋屋交番」と懐かしい風景としてひとくくりにして胸に刻んで立ち去ります。更に注意深い人は、社務所の様な建物で、今でも着付けや絵手紙の稽古に使われていることに驚きます。
そんな初宮さんも昭和の終わり頃までは子どもの声で賑やかでありました。弁天さまのご縁日7月7日には願い事の短冊が笹に吊され、例大祭の10月16日17日には子供会によるみたらし団子やわらび餅のふるまいもありました。
この前まで子ども達であった私たちは「大門玉手箱」という名前の一箱古本市で、ご縁あってここ初宮さんで賑やかに遊ばせていただくこととなりました。来年以降も、続けて参りますのでどうぞよろしくお願いいたします。
由緒書きからの一部抜粋です。「若宮おん祭には田楽法師は必ずここへお参りして芸能を奉納、当日の事始めをする古例である。これがため初度の宮とも称す。現在でも祭礼当日ここで田楽を行ふ」。もちろん今でも、おん祭りのお渡りの日の午前中、田楽座ご一行は初宮さんで田楽を奉納されます。前庭で披露される田楽は本当に身近で「私たちのお祭り」と言ってしまいたくなるほどです。
猫が子を産み、イタチが横切り、鹿が緑を食べ散らかす町中のお社。初宮さんでまたお目にかかりましょう。
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まちなかで暮らし、遊び、そして働くひと 清水隆史さん
長野市を拠点にフォトグラファー・フリーライターとして活動中。信州大学在学中の1993年、ライブハウス・小劇場「ネオンホール」をスタート。2003年、喫茶・ギャラリー・編集室である「ナノグラフィカ」を4人でスタートさせる。奈良市出身。
「こんな町の中でも限界集落のようになりつつところもあるんです」と清水さんは淡々と語りはじめました。観光客でにぎわう、長野市の善光寺。1000年以上の歴史を持つこの寺の周辺には、何百年も前から「門前町」が形成され多くの商店や問屋があり、たくさんの人も住んでいました。しかしその後、にぎわいは鉄道の駅を中心とした地域、そしてさらに郊外へと移っていきました。「子どもの声が聞こえなくなったんですよ」単に人が減るだけでなく高齢化も進んでいます。「楽しみながら暮らすことが、町に元気をよみがえらすのではないか、増えた空家に人が移り住んだらもっと活気が出てくるのでは?という思いで『長野・門前暮らしのすすめ』という取り組みをはじめたんです」。
清水さんたちが手がける「長野・門前暮らしのすすめ」は、様々なイベントやワークショップ、そして空き家の調査などによって賑わいを取り戻そう、暮らす人や訪れる人と一緒に門前町を楽しもうというプロジェクトです。具体的にはお話会、カメラ片手のまちあるき、門前暮らし相談所、門前で行う演劇、冊子・新聞の発行などを中心に、実際にそこで暮らしつつ、住民目線で活動しておられます。
そんな清水さんが育ったのは奈良・初宮神社のすぐ隣。やんちゃ小僧は神社の境内を庭にして遊びまわっていたのでした。大きな寺社と大学がすぐ傍らにある町、長野そして奈良。「奈良の実家のこれからも気になる…あの家もホント古くていい家なんです」と言いつつ、清水さんはカメラを片手に今日も長野の町で動きまわっているのです。